自動車業界のソフトウェア開発では、ドライバー、乗客、歩行者の身体的安全性がきわめて重要であり、適切な開発を実現できるかどうかは、コードの検査と検証にかかっています。高度な安全運転プログラムと自動運転プログラムがより複雑になり、相互依存性も増していく中、シミュレーションテストには限度があります。また、路上テストには、費用と時間がかかります。
ソフトウェアインザループ テスト(VIL) は、ソフトウェアまたはハードウェアによるシミュレーションと路上テストの間のギャップを埋めるアプローチです。一般的な VIL テストアプリケーションには、次のような特徴があります。
- 自動運転機能に加え、パーキング アシスト、車線変更、緊急ブレーキ、衝突回避ステアリングなどの機能の検証
- 対象車両を必要とする危険かつリスクの高い運転操作を、衝突の心配なく実行するための安全な環境を提供
- 再現可能なシナリオを利用して、エッジケースの微調整
- 対象車両の本物のドライバーにかかるコストを仮想化によって削減
- 車内でのテストケースの自動的なロードとリアルタイムのデータ後処理を使用して、車両テスト時間を 70% も削減
実際には、VIL はテストプロセスの最後のステップの 1 つです。ソフトウェア開発の初期段階では、通常、テスト担当者は、ソフトウェアインザループ (SIL) を使用し、車両とその環境全体のシミュレーションを行います。これらのソフトウェアベースのシミュレーションは、リアルタイムのテストよりも高速に実行でき、複数のシナリオを迅速に検証する際に効果を発揮します。テストの次の段階は、ハードウェアインザループ (HIL) です。これは、テストベンチを実験室環境で使用し、実際のレーダーとカメラからの入力を電子制御ユニット (ECU) に送信する、より複雑なプロセスです。
次のステップが VIL テストで、通常、実際の車両を使用して非公開のテストトラックで実施されます。人間のドライバーが運転席に座りますが、車両の ECU が応答する入力は模擬されています。つまり、車両の前に歩行者がうっかり飛び出すという状況では、実際には歩行者はその場に存在しませんが、テスト対象の ECU は、そのことを知りません。ECU はブレーキを作動させるための信号を送信するので、評価者は、システムとして機能する車両全体の有効性を評価できます。
VIL には複数のメリットがあります。
- VIL は、テスト環境を物理的に構築せずに、複雑なソフトウェアシステムをテストできるため、コストを大幅に削減することができる。たとえば、VIL を使用しないテスト環境では、歩行者のダミーが必要になる可能性があります。
- VIL では、車両環境の複数のシナリオについて、再現可能なテストを実施できる
- VIL では、危険性のあるテストシナリオを実施できる
- VIL 環境を使用すると、ソフトウェア開発の反復の中で機能変更や機能強化を検証する際に、車両テストの統合、テストトラックの使用、特殊なテスト環境の使用に必要な時間を削減できる
- VIL は、システムが時間とコストのかかる路上車両テストを実施する準備が整っているかの適格性を評価する機能をサポートしています。
仕組み
VIL テストはきわめて複雑です。テスト担当者が、現実世界の状況を正確に表現できるシミュレーション環境を作成する必要があります。VIL 環境には、通行車両、道路標識、路面標示などが必要です。さらに、テスト装置は、シミュレーションされた環境を実際の車両に提供します。つまり、テスト担当者がテストトラック上で車両を運転しますが、センサーへの入力は、シミュレーションから提供されます。
これを適切に機能させるには、VIL がシミュレーション環境と実際の環境を同期できる必要があります。たとえば、シミュレーションのシナリオで車両がブレーキをかける必要がある場合、現実世界の車両が適切なタイミングで停止し、シミュレーションされた物体への衝突を回避する必要があります。
自動運転のシナリオで、テスト担当者は、自動システムと人間のドライバーの間で切り替えがどの程度スムーズに行われるかを評価できます。VIL テストを実施することで、テスト担当者は、誰も危険にさらさずに、実際の状況で人間の行動を分析し、考慮することができます。
VIL のその他のメリットには、危機的な車両操作に関する安全なテスト、現実世界の条件を自在に再現する機能、実際の車両の運動性を評価する機能などがあります。さらに、拡張現実および仮想現実テクノロジーを活用することも可能で、その場合、ドライバーはダッシュボードに設置された画面を見る代わりに、ヘッドセットを装着します。